年齢を超えたマーケティング 消齢化社会の到来とプロモーションの変革
「消齢化」は 近年のマーケティングの世界で注目されるキーワードです。年齢を基準にした従来の消費者のターゲティングが難しくなり、多様な消費者ニーズを満たすための新しいアプローチが求められています。
この記事では、消齢化社会とは何か、その背景と影響、そしてプロモーションがどのように変わっていくのかを詳しく解説します。
この記事の目次[非表示]
- 1.消齢化社会の定義
- 2.消齢化社会の背景
- 3.消齢化時代におけるプロモーションの変革
- 3.1.伝統的なターゲット層の考え方の変容
- 3.2.多様な消費者ニーズの認識
- 3.3.プロモーションの多様化
- 4.消齢化社会に適応したプロモーション例
- 5.まとめ
消齢化社会の定義
消齢化とは、博報堂生活総合研究所が長期時系列調査「生活定点」において2023年に発見した「生活者の意識や好み、価値観などについて、年代/年齢による違いが小さくなる現象」のことを指します。このような消齢化が進行している現在の日本社会を消齢化社会と言います。
従来、特定の年齢層をターゲットとしたマーケティングが主流でしたが、近年では20代も60代も同じ商品やサービスを楽しむことが一般的になってきました。このような動きは、年齢だけでは人の価値観やニーズを捉えきれないことを示しています。
消齢化社会の背景
消齢化が進む要因として次の3つ変化が考えられています。
価値観の変化
価値観の変化における「すべき」が減ったことが要因の一つだと考えられています。生活の基本となる家族や仕事に対する考え方について、以前は「こうすべき」「こうでなければならない」といった保守的な価値観が根強く、個人の自由な生き方は受け入れられにくい状況でした。戦争や戦後直後の動乱を経験した世代はこのような価値観を持つ人が多い一方、そのような経験をしていない世代は個人の自由に重きを置く人が多く、世代間で価値観の大きな隔たりがありました。
しかし、世代交代が進むことで自ずと保守的な価値観を持つ人が減っていきます。さらにバブル崩壊後の経済低迷が約30年にもおよぶ長期間続いたことで、現在の多くの世代がその社会状況を共有することになったことも世代間の価値観に差が生まれなくなったことに影響していると考えられます。
能力の変化
次の要因は高齢者の「できる」が増えたというものです。皆さんのご経験からも、30年前の70歳の人と、今の70歳の人を比べると見た目も能力も、気持ちの面でも今の70歳の人の方が「若い」と感じるのではないでしょうか。医療技術や生活水準の向上により日本人の平均寿命は延び続けており、シニア世代のできることが体力的にも精神的にも増えています。
また、インターネット・スマートフォンの普及も能力の変化に影響を与えました。世代に関わらず求めている情報やサービスを簡単に手にすることができるようになりました。
これまで「高齢者だからできない」と言われていたことは減少していき、結果として能力においても世代間の差がなくなってきています。
好み・関心の変化
3つ目の要因は「したい」が重なったというものです。若者からシニアまで、従来よりも自由な生き方に対する制約が少なくなり、その結果、「すべき」ことが減少し、「できる」選択が増えました。これは、どの世代においても、生き方の選択の範囲が拡大したことを意味します。人々は、それぞれの状況や欲求に応じて、望む生き方を模索し始めました。
この傾向により、従来の「年齢に応じた」ステレオタイプに縛られることなく、各個人の「望む生き方」の追求が活発化しました。その結果、同じ世代の中でもライフステージや好み、欲求の差異が顕著になり、さらには異なる世代間での価値観の共有も増えてきました。
従来、年齢層に特有の趣味や関心があると考えられていましたが、今日、それは急速に薄れてきています。個々の自由な「望む生き方」の追求が、意外にも世代間の価値観のギャップを縮小する要因となっているのです。
消齢化時代におけるプロモーションの変革
消齢化は幅広い分野に影響を与えると考えられます。もちろんそれはプロモーション分野も例外ではありません。では、具体的にどのような影響が考えられるでしょうか。
伝統的なターゲット層の考え方の変容
過去のマーケティング手法では、年齢や性別といった明確な属性を基にターゲット層を絞り込んでいました。しかし、消齢化の流れを取り入れることで、これらの属性だけでなく、趣味や興味、価値観などの心の動きを重視したアプローチが必要となります。
多様な消費者ニーズの認識
消齢化が進む現代においては、一般的な年齢層別のニーズを超えて、個々のライフスタイルや価値観に合わせた商品提供やコミュニケーションが求められています。これに対応するため、データ分析を活用して、消費者の本質的なニーズを深堀りする動きが加速しています。
プロモーションの多様化
一つの商品やサービスも、異なる価値観を持つ消費者に対して様々な角度からアプローチする必要があります。一つのキャンペーン内でも、異なるメッセージを組み合わせることで、多様な消費者に訴求する戦略が必要となります。
消齢化社会に適応したプロモーション例
消齢化社会では年齢を超えた共通の価値観や興味・趣味を中心にプロモーションを考えることが求められます。具体的なプロモーション例として次のようなものが考えられます。
共通の趣味・興味を中心としたイベントやワークショップ
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内容
アート、音楽などのワークショップやイベントを開催する。
年齢を問わず、興味や趣味を共有する人々をターゲットにする。
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実施例
文具メーカーがアート用品の新製品をプロモーションするために、アートワークショップを開催する。参加者は若者からシニアまで幅広く、同じ興味を共有することで自然なコミュニケーションが生まれ、商品の魅力も直接体感することができる。
インフルエンサーマーケティングの多様化
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内容
従来、若者をメインターゲットとしたインフルエンサーマーケティングだったが、消齢化を反映してシニア層のインフルエンサーも積極的に活用する。
実施例
健康食品ブランドが、20代のインフルエンサーだけでなく、60代のシニアインフルエンサーも起用する。シニアインフルエンサーが日常での商品の活用方法や体感をシェアすることで、同年代だけでなく、異世代のフォロワーにも商品の魅力が伝わる。
インフルエンサーマーケティングについてはこちらの記事で詳しくご紹介しています。
まとめ
消齢化が進むなか、企業には更に細やかなセグメンテーションや個別対応が求められています。AIやデータ分析技術の進化により、一人一人の消費者を深く理解し、真に心を動かすプロモーションを展開することが可能となるでしょう。
また、消齢化社会は、企業にとって新しいマーケティングのチャンスをもたらしています。従来の枠組みにとらわれず、消費者の真のニーズを捉えることで、新たな価値提供が期待されます。
なお、「ユーザーの趣味・関心に基づくイベントを実施して、そのなかでキャンペーンを行ないエンゲージメントをさらに高めたい」「初めてキャンペーンを開催する」という方は、ぜひデジタルラインまでご相談ください。